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岩田榮吉の作品

 作品点描(12)
  音楽世界との関わり(その2)


岩田は、少年時代には、レコードを聴いたり楽器演奏に興味を持ったりしていたようですが、パリに来てからは、音楽会に通ったりレコードや楽譜などを買い集めたり、いわゆる「音楽愛好家」らしいことをする余裕はありませんでした。しかし岩田には、音楽への関心が薄れた訳でも、また、音楽を単なる日常生活の添えものと考えていたのでもなく、音楽が持つ意味について深く思いを寄せていたことが作品《アポロン》(1970年・画集No.23)に表れています。

アポロンはギリシア神話に登場するオリンポス十二神の中の一神で、太陽神とも同一視されますが、詩歌や音楽などの芸能・芸術の神として知られています。作品《アポロン》には、学校の教室にあったような懐かしい石膏像の姿で、ギリシアの地図を背に登場します。楽譜やヴァイオリン・角笛はもちろんその属性を表しています。そしてこの作品では、その他に描きこまれたオブジェそれぞれにも意味が込められているようです。

書物とそこに挟まれたクラブのクイーンは一般に知の象徴ですが、ここでは理性的な意識とでも言えばいいでしょうか、時間の象徴である砂時計との組合せで、様々な大切な記憶も時とともに空しく薄れていくことが表されています。一方、ガラスの水差しのワインのように音楽は心を解き放ち、ガラス球のように忘れかけた世界を映し出す…。そのようなものとして音楽はあるのです。

岩田はモーツァルト、ヴィヴァルディ、バッハなどの器楽曲が好みでした。後代の「感動させる音楽」や「音響の大きさや超絶技巧で圧倒する音楽」にはない控えめで寛容な音楽は、岩田にとって重要な絵画世界への一つの入口であったものと思われます。


《アポロン》 1970年

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