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岩田榮吉の作品

 作品点描(17)
  《シシリア物語》


「大航海時代」の幕開け前夜、地中海の「ど真ん中」で、中世ヨーロッパらしからぬ痛快な出来事がありました。舞台はシシリア(=シチリア)島。10世紀終わり頃からちらほらやってきた傭兵あがり山賊くずれのノルマン人たちが、神聖ローマ、ビザンチンの東西帝国軍を退け、ローマ教皇の言葉にも耳を貸さず、イスラム勢ともうまくやって、ついに12世紀にはイタリア半島にもまたがる王国を樹立してしまった…しかも豊かで、ローマカトリックの人々もギリシア正教の人々も、さらにイスラム教の人々も一緒に暮らしていた…というシリーズものコミックのような事態が出現したのです。

古代ギリシア、カルタゴ、ローマ、ヴァンダル、東ゴート、ビザンツ…と支配者が変る中、シシリアは地中海の歴史において幾度も主役となってきました。18世紀以降、北部ヨーロッパの国々の芸術家や学者そして貴族の子弟による「イタリア留学ブーム」がおこり、ナポリを中心とする南イタリアそしてシシリアもその目的地でしたが、それは古代ギリシアからの様々な文明が集積する、さながら地中海文明博物館だったからにほかなりません。

《シシリア物語》(1971年・画集No.41)で岩田はこうしたシシリアに目を向けています。大きく掲げられているのは、もちろんシシリアの地図。掛けられた時計は、時の移ろいを示し、権力の変転を表しています。その時計が砂時計でなく機械式のものであるのは、変転が現代にまで続くからかもしれません。カードはダイヤのK、シシリアのフェデリーコ1世(在位1197年~1250年)は「最初の近代君主」、「ルネサンスの先駆」と評され、そして大型化した船が富をもたらします。しかしその一方で、次々外国勢の支配下に置かれる民衆の暮らしはつましいものにならざるを得ません。今日シシリアといえば「マフィア」の郷里としても知られますが、光の背後につきまとう影は既にこの時代に萌していたのでしょうか。

この作品、人形の手前に小さな凸面の置き鏡が描かれ、制作中の岩田の姿が映っています。かのファン・エイクの《アルノルフィニ夫妻像》をはじめ、16~17世紀オランダ絵画に多くみられる意匠ですが、ヨーロッパ精神を見つめる岩田の創作活動そのものを暗示しているかのようです。


《シシリア物語》 1971年
《シシリア物語》 1971年


《シシリア物語》 1971年 部分
《シシリア物語》 1971年 部分


コロンブスの乗船「サンタ・マリア」と同じカラック型3本マストの帆船です。15世紀頃ヨーロッパのほぼ全域で遠洋航海船として使われました。

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