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岩田榮吉の作品

 作品点描(27)
  岩田の油彩画技法 (その2 下塗りと下描き)


フェルメールの《絵画芸術》において、モデルの頭上の月桂冠を描き始めた画家が向かっているキャンバスは、一面茶色がかった色をしているように見受けられます。フェルメールは黄味がかった白の地に茶系の下塗りを施したキャンバスを使ったことがわかっており、同時代のレンブラントなども同様で、この時代の常識だったのかもしれません。下塗りの色調は全体の雰囲気に大きく影響します。また茶系の下塗りでは、影の部分など暗部の微妙な表現をしやすくすることも容易に想像がつきます。そして、《絵画芸術》の画家の右ひじの下あたりのキャンバスをさらによく見ると、月桂冠を描き始める前に、全体の構図を大まかな白い(あるいは薄茶色の)輪郭線で描いていることが見てとれます。

岩田はどうだったのでしょうか。

「飯沢:
…少し岩田さんの秘法を公開していただけませんか。

岩田:
秘法なんて何にもないんです。最初シルバーホワイトで下塗りをしまして、その上に薄くグリザイユでデッサンをとり、だんだん絵具を厚く重ねてゆくだけです。」

ー 飯沢匡との対談における岩田の発言 「みづゑ1971年1月号」所収

シルバーホワイトは鉛系のホワイト顔料で、溶き油と混合することで堅牢で非孔質の塗膜となり、色はやや黄味を帯び、光沢と透明感があります。また、グリザイユは白黒の明暗描法(茶系明暗によるものは「カマイユ」という)です。

伝統的な油彩画を手掛ける画家にあって、キャンバス地塗りと下塗りは、一番の工夫のしどころのひとつです。藤田嗣治の「乳白色の肌」が下塗り顔料へのタルク混入によって実現されたことがわかったのは、その死後40年以上も経ってからであったように、易々と語られるものではありません。岩田の場合も「秘法なんて何にもない」かどうかはともかくとしても、フェルメールなどの時代の技法の研究を通じて自らのスタイル確立を目指していたことは、その言葉からうかがうことができます。


ヨハネス・フェルメール 《絵画芸術》 1666年~67年頃 油彩/キャンバス 120cm×100cm ウィーン美術史美術館 部分
ヨハネス・フェルメール 《絵画芸術》 部分

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