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岩田榮吉の世界

岩田榮吉の作品

 作品点描
  《十字架の人形》



《十字架の人形》(画集No.35)は岩田にとって自信作の一つだったと思われます。1967年のコンパレゾン展(パリ市近代美術館)、1970年の第1回個展(日本橋三越)、同年の第9回国際形象展(日本橋三越)などに出品しただけでなく、第1回個展図録の冒頭にこの作品を掲げ、週刊誌「朝日ジャーナル」1971年3月26日号の表紙にも本作を自薦しました(人物点描~朝日ジャーナル 1971年3月26日号 参照)。しかしながら岩田はこの絵を手許にとどめず、親族からの購入申出も退け、一般の購入希望者への売却を承諾しています。

この作品は、十字架を掛けた白い衣装の人形が強い印象を与えます。簡素な白いドレスといえば、マリー・アントワネットやベアトリーチェ・チェンチを題材とした絵画で知られるように「死装束」です。そういえば、糸杉に似た錐体が死を、時計やロウソクがやはり限りあるものを暗示し、ガラス玉がそうした世界の認識を表わすことはヨーロッパ絵画の伝統の中にしばしば見られるものでもあります。岩田の傾倒していた17世紀ごろのオランダ絵画に、骸骨などをモチーフとして「人生の空虚さ」の道徳的寓意を込めた「ヴァニタス」というジャンルがありますが、この作品は岩田流ヴァニタスと言えるかもしれません。

岩田はこの自作を評して「ブキミな絵」と書いたことがあります。出来ばえに自信があったからこその複雑な気持ちだったのでしょうか。


《十字架の人形》 1970年
《十字架の人形》 1970年


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