岩田榮吉の作品
作品点描
カーテンとトロンプルイユ(その2)
岩田のトロンプルイユにカーテンはどう取り入れられたか、それにはまず、カーテンなしの作品からわかるトロンプルイユの特質を見てみましょう。概して、作品画面の後に箱状の造作をつけた岩田のトロンプルイユは、視点を真正面からやや斜め方向にずらして見たときにもっとも効果を発揮します(
作品点描~トロンプルイユ(その3) 参照)。しかし、同じ作品を異なる角度から撮影した下掲の画像には、違和感を覚えます。
本作の空間では、画家は一点透視に近い真正面の視点から画面に向かい、左上方から光が射しています。したがって、箱状のキャビネット内側の四側面のうち、右と下の内側面には光が当たっています。キャビネットが現実の立体物であれば、下に掲げた画像の角度から見たときには右の内側面が見えるはずはありません。見えるはずのない右内側面が見えているところに違和感の原因があるのです。
《香水瓶とガラス玉(トロンプルイユ)》(未完)
対して、左斜め方向から見た場合、つまり「
作品点描~トロンプルイユ(その3)」の画像では、左内側面が陰になっているために、(描かれてはいても)目立たず、違和感が薄れます。上下の内側に関しても同様のはずですから右下斜め方向から見た場合にもっとも違和感があると思われますが、通常観覧者の視点が上下に移動することは少ないので、違和感解消には光のあたる横内側面をどう処理するかが課題となります。
カーテンはこの違和感解消に大きな役割を果たしています。問題となる光のあたる横内側面を、例えば《カーテンと地球儀(トロンプルイユ)》に見られるように、カーテンで隠してしまう訳です。キャビネットに付属する扉なども同様の効果をもっていることは言うまでもありません。
《カーテンと地球儀(トロンプルイユ)》 1981年 (画集No.116)