岩田榮吉の作品
作品点描
《パラソルを持つ人形》(その2:損傷と修復)
本作には、修復が危ぶまれたほどの損傷歴があります。いつのことかは不明ですが、搬送時の梱包に問題があり、しかもその梱包状態のまま長期間を経たために、画面の表層に多数の異物が付着し固化してしまったのです。しかも、損傷する前の作品を撮影した写真がありません。軽率に付着物を除去しようとして絵具が剥離してしまった場合、補彩の手掛かりがなく、修復は行き詰まってしまいます。作業は外部の専門家に依頼することにしました。
修復手当前の岩田榮吉《パラソルを持つ人形》
まず、状態確認の調査です。支持体は既製のF30号木枠張キャンバス地・白色系地塗りで、波うちもなく安定。絵具層は、半透明の薄い層が重ねられており、剥落が認められるのは右端に沿った線状のわずかな部分のみ。問題の表層付着物は厚めに塗られたワニス層に固着し、付着物周辺部に僅かな凹み・盛り上がり・ズレは散見されるが、絵具層が大きく侵されている箇所はないとのことでした。
修復処置に入ります。まず付着物は、メスを使用して物理的に、時間をかけて少しずつ剥がして除去。塵埃の汚れを精製水洗浄し、周辺部の小欠損箇所に炭酸カルシウムとウサギ膠の調合物で充填を施した後、付着物除去箇所と欠損部に、水彩絵具と樹脂メディウムによる補彩を施しています。
修復前の悲惨な状況には驚かされましたが、人形の顔や衣装など作品の主要部が無事だったこと、絵具層に大きな損傷が及んでいなかったことから、専門家の手を借りて蘇らせることができました。