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岩田榮吉の作品

 作品点描
  《トランペットを持つ人形》


岩田の作品に人形のモチーフが登場するようになるのは1960年代以降のことで、1962年作の本作はその最初期のものです。そして本作のモチーフとされた人形は、本作以降も髪型、衣装、帽子、持物などを替え、様々な役割を与えられて度々起用されるようになる重要な存在です。しかしながら残念なことに、岩田没後のパリのアトリエにこの人形は見出せず、その所在は不明のまま現物を見ることはできません。

関係者によれば、この人形は岩田が私淑していた長谷川潔旧蔵のものです。確かに長谷川の版画作品《置き忘れられた人形(人形とすぐり)》(1953年)、《窓上の人形》(1954年)、《卓上の人形》(1960年)に登場する人形は本作の人形に似ており、「(長谷川夫人である)ミシュリーヌの姪にあたる…シモーヌが小さい頃もっていたもの」(猿渡紀代子「長谷川潔の世界(下)」1998年有隣堂刊)という由来がわかっています。

本作の人形の衣装は、長谷川からもらい受けた状態のままのようです。前記長谷川の三作品のうち前2作における人形の衣装が、シンプルなワンピースとカーディガンであるところが共通しています。また、本作の状況設定は岩田が1960年に描いた《青いとんがり帽の自画像》に通底するものが認められます(作品点描~とんがり帽の自画像 参照)。

本作は、長谷川から継承した人形に啓発され、自身の深奥や意識を仮託するモチーフとして人形を見直す契機となった作品となりました。


《トランペットを持つ人形》 1962年
《トランペットを持つ人形》 1962年



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