岩田榮吉の作品
作品点描
ガラス玉のモチーフ(その1:《ローソク立てとガラス玉》)
岩田の作品に見られるモチーフの中でも、最も多用されているものの一つが「ガラス玉」です。岩田の静物画は、モチーフを組合わせ、ある時期ある場所の環境・事象を象徴的に表します。それは単に画面構成上の観点から選ばれ配置されているだけではありません。しかし個々のモチーフが表象する事物はただ一つに限られるものでもありません。伝統的に用いられてきた意味、今日の私たちが連想するイメージなど様々に引用されます。
西洋絵画史上「ガラス玉」がもっとも取り上げられたのは、17世紀ごろに流行した「ヴァニタス」すなわち「生のはかなさ」を主題とする静物画においてでしょう。以下の作例には、楽器・ガラス玉・クロノメーター(時計)・骸骨・火の消えたランプ等々ヴァニタスの主要なモチーフが盛り込まれています。シャボン玉にようにはかなく消え去るガラス玉には画室や制作中の画家自身も映り込んでいます。
ピーテル・クラースゾーン 《ヴァイオリンとガラス玉のある静物》 1628年
油彩/板 ゲルマン国立博物館(ドイツ ニュルンベルク)蔵
岩田の《ローソク立てとガラス玉》は、そのタイトルをはじめ、もっともヴァニタス絵画の典型に近い内容となっています。火の消えたローソク、外界を映すガラス玉、後戻りしない時を刻む時計、虚飾を映し出す鏡などが三角形構図で配置され、画像ではなかなかわかりにくいのですが、岩田らしく細密に描き込まれた黒いレースがそれらのモチーフを際立たせ引き立てて、主題を強調しています。
岩田榮吉 《ローソク立てとガラス玉》 1970年
油彩/キャンバス (画集№28) 横浜本牧絵画館蔵