岩田榮吉の作品
作品点描
《日本人形(トロンプルイユ)》
エキゾティックな文物から新鮮な刺激を受けることは、フランス人だけでなく何処の国でも多くの人の関心を引き、好まれます。岩田もパリの画家仲間をはじめ周囲から、「日本的な作品」を期待されたとして全く不思議ではありません。しかしながら、それだけでは動かず、取組む以上は知芸を尽くしたい岩田のこと、いわゆる日本的なモチーフを取上げた作品はごく少数にとどまります。
《日本人形(トロンプルイユ)》 1978年 (画集№94)
その岩田にインスピレーションを与えたのは、パリのユネスコ本部に勤務していた日本人S氏夫妻の所有する日本人形でした。美しい振袖姿、端正な顔立ちの市松人形ですが、岩田はそれを単に「日本的な人形」として描くのではなく、他のオブジェと組み合わせ、さらにトロンプルイユとして、もう一段踏み込んだテーマの作品にしています。
閉ざされていた扉が開きかけ、輝くように現れる美しい存在、これは日本の創世記である神話上のアマテラスではありませんか。ということになれば、このキャビネットは「天の岩戸」…そして、岩戸の前で行った神事にまつわる鏡(八咫鏡)と角骨(太占)、アメノウズメの踊りにまつわる刀(矛)、鼓(桶)、笛なども配されています。
ギリシア・ローマ神話の太陽神アポロンは主神ゼウス(ユピテル)の息子にあたる男神、旧約聖書の創世記で神はまず天地を創造し光を生みだしたとされますが、アマテラスは国産みの神イザナギ・イザナミの息女にあたる女神にして太陽神です。パリで制作した岩田にとってヨーロッパとはそして日本とは何かを問うことは大きなテーマでした。それは今の自身と直接に関わっているのです。ちょうどトロンプルイユが絵画世界と現実世界を繋いでいるように。しかし声高に主張することはありません。「日本的な人形」そのものの描写にも手を抜くことはないのです。
横浜本牧絵画館の展覧会「
トロンプルイユの現在2021」(2021年4月~7月)の会場風景。メインイメージとして造作物にもアレンジされた。