岩田榮吉の作品
作品点描
風景素描から(その3:北アフリカ)
岩田の北アフリカ旅行については、旅程、目的その他不明な点が多くあります。1960年ころといえば、地中海沿岸の旧フランス領のうちアルジェリアは独立戦争の最中の時期にあたるので、行く先はチュニジアあるいはモロッコでしょうか。また、この辺りに岩田が興味を持ちそうな美術館などもありません。あるいは単なる観光旅行だったのでしょうか。それにしては遺跡などを描いたものも見当たりません。
とはいえ、ドラクロワに始まりルノワール、マティス、さらにはカンディンスキーに続く色彩表現はここ北アフリカ由来といわれます。強い光に照射される原色が様々にあふれる世界は、パリやオランダでは見ることができません。岩田が当地を訪れたのもそうしたことと無関係ではなかったでしょう。そして意味合いは異なるものの、岩田もまた制作上の大きなヒントを得ることになります。
《北アフリカ風景》(画集 水彩グァッシュ No.6) 東京芸術大学蔵
幾何学的で単純な形の建物が並ぶ街並みは色数少なく、華やかさもありませんが、太陽光を反射する白壁と、対照的に作りだされる暗い影が時間の経過とともに変化し、街中の景観をドラマティックに演出します。岩田には、イタリアでは見えなかったヨーロッパの栄光に潜む挫折、繁栄と表裏拮抗する貧窮を象徴しているかのように映ったようです。そして、「暗すぎる」と思ったカラヴァッジョの背景の黒さにも思いは及んだはずです。(
作品点描~《香炉と宝石箱》-カラヴァッジョ再認識 参照)
《北アフリカ風景》(画集 水彩グァッシュ No.5)
《北アフリカ風景》(画集 参考作品 No.55)