作品にサインを入れる…洋画に限らず日本や中国でも書画作品には落款が入れられます。落款すなわち「落成款識」とは、完成時に文字情報を記し残すことですから、サインに類似する習慣です。その発想が古来のものであること、今日に続く習慣として広まったのが13~15世紀ころからであることも共通しています。その作品を成立させたのは誰であるかを明らかにすることが、洋の東西を問わず、その本旨なのです。
作品にサインを入れることが常態化した背景としては、作家の自我意識以上に、作品の流通進展が大きな影響をもちました。つまり、贋作ではないこと、完成作であることを保証する意味合いが重視されたのです。デザイン性の高い凝ったサインが考案されるようになるのはその表れでもあります。逆に、譲渡を前提にしない作品には、たとえそれが自身の完成作であっても、サインを入れないケースが多くみられます。
アルブレヒト・デューラー(1471-1528)の事例
人気版画家であったデューラーは模倣版画の氾濫に悩まされ、
作品に著名なサインを入れたうえ、史上初といわれる著作権裁判を起こした。
岩田の場合は、画集掲載の117作品を通観すると、7パターンのサインが認められますが、大まかに3分類されます。(1)1957年の渡仏以前、(2)パリ時代前期1977年ころまで、(3)パリ時代後期1977年ころ以降の3グループです。大多数を占める(2)(3)グループは、いずれも小振りの活字体で、大きな差異はなく、名のEの有無、姓の後ろ4文字が大文字か小文字かの違い程度です。
渡仏以前、上表B群のサイン
《運河》1954年より
パリ時代前期、上表D群のサイン
《ローソク立てとガラス玉》1970年より