本文へスキップ
岩田榮吉の世界

岩田榮吉の作品

 作品点描
  時計と時(その3 時の小箱とは)


岩田の《時の小箱(トロンプルイユ)》(画集№61)には、2種類の時計が描かれ、タイトルにも「時」がうたわれています。時の小箱にはさまざまな「時」が詰め合わせで入っているわけではなく、2種類の時計が表わす「時」にまつわるものが入っているのです。しかも「時」に関係するものが何でも入っているのかと言えば、そこは「小箱」なのですから、選りすぐりのもの価値のある大切なものしか入りません。

いま、小箱にかかっていた鍵が開けられました。描かれた時計は「ゼンマイ式懐中時計=機械時計」と「砂時計」、その意味するところは「近代の時」と「人生の時」ですから、この小箱に入っているのは、近代人の大切なもの、つまり心のよりどころであり、生きる力の源泉です。天文学をはじめとする科学(天球儀)、知識の集積(正十二面体の文鎮)、広い見聞(メガネ)とそれらに基づく果敢な判断(秤)などを表すオブジェたちが、ヨーロッパの地図のうえに展開しています。

岩田はこの小箱をさらにトロンプルイユで表現しました。小箱に入っているものたちが、いまこの作品を見ている私たちのいる空間に、そしてまさに私たちが生きるこの時代につながっていることを表すために、トロンプルイユは最適な形だったのです


《時の小箱(トロンプルイユ)》 1974年
《時の小箱(トロンプルイユ)》 1974年



ナビゲーション

バナースペース