人物点描
アトリエ その2
1980年前後に活躍した画家のアトリエを訪ねた興味深い写真集があります。南川三治郎『アトリエの画家たち』(朝日新聞社 1983年3月刊)です。これを見ると、アトリエ村「モンマルトル・オ・ザルティスト」の同じ広さの部屋ながら、荻須高徳(1901年~1986年)のアトリエ内部風景と岩田のそれとではおもむきがまったく異なります。他の画家たちのアトリエを見ても、年代の違いや描く対称の違い等々はあるものの、それぞれに個性的、そしてその雰囲気は何かしら作品に通じるものがあるように思われます。
同書の岩田のアトリエに関するコメントには、
「鏡、鍵、トランプ、時計、人形などが所狭しと置かれ、まるでアトリエ全体が舞台装置のようだ。」とあります。また、フィガロ紙のジャニンヌ・ヴァルノは、次のように書いています。
「岩田の仕事場に入るや否や、ひとは彼の絵を理解する。この部屋の静けさは乱すべきではない。コロンビーヌ(注)が、舞台監督である画家自身の合図を待っているこの劇場では、誰もその小道具を乱そうとしない。この画家は彼のアラジンの洞窟である戸棚を開けて、すでに遠い過去となった子供時代の眠る宝物を私たちに見せてくれる。彼は自分で人形のドレスを縫い、舞台の照明を設置し、詩的な雰囲気を作り出す。彼が構成した装置から数メートル離れたところに画架に載った絵がある。」
―『岩田榮吉作品集』東京セントラル絵画館 1977年 所収(一部訳修正)
(引用者注:「コロンビーヌ」はイタリアの古くからの即興演劇「コメディア・デラルテ」の主要登場人物で、「アルレッキーノ=アルルカン」の恋人。
作品点描~道化師たち(その1 アルルカンとポリシネル) 参照。)
岩田のアトリエ(2) 撮影:南川三治郎
岩田のアトリエ(3) 撮影:南川三治郎
岩田のアトリエ(4) 撮影:南川三治郎