人物点描
~第2回個展(その3 評価)
岩田の第2回個展(1977.10.25~11.13、東京セントラル絵画館)については、概ね好評を得、新聞などの展覧会評で取上げられました。
朝日新聞11月2日夕刊
【見出し「デリケートな画肌 鋭さも 岩田栄吉作品展」《たんす(トロンプルイユ)》の写真入り】より
「(自身の分身である人形が主な題材だが)その分身をみつめる愛情―そこには長い時間の綿密な観察を通しての描写の清潔さ、鋭さがある。そして、…古典的な描法…を基盤にしながらも、今日の空気がこの居間の空間を吹き抜ける新鮮さも感ずるのである。」
「また、岩田はその誠実な技法を駆使して、トロンプルイユ(だまし絵)を試みる。…視覚の遊びと言えばそれまでだが、すっかり見る人の目をだましてしまうだけの技能をこの画家はしっかり身につけているのだ。」
東京新聞11月4日夕刊(寺田千墾記者)
【見出し「神秘的な詩の世界へ近づく パリ在住20年の岩田栄吉展」《室内》の写真入り】より
「(人形などの)オブジェを窓からの光のなかに組み合わせ、一枚に数か月を要する根気で描く画面は一種の静謐な神秘的な詩の世界に近づいている。」
「精密描写のオブジェの現実感は、お伽噺的な密室世界を確かにしながら、逆にその世界をこえて時間と空間の永遠的な小宇宙と昇華することに彼の終極の目標がある ― と私は希望的に解読する。しかし、現実の作品は必ずしもそこまでに至ってないことも確かだ。」
「(終極の目標にはまだ遠いかもしれないが)現代絵画の風潮が次元の低い時代の好みに右往左往するなかで、古今の大画家に傾倒する岩田の態度は注目し、激励していい。」
毎日新聞11月8日夕刊
【見出し「“ひねり”利いた油彩 岩田栄吉展」《マルレーヌ》写真入り】より
「克明な、これ以上精緻に描きようがあるまいと思えるほど丹念な油彩である。」
「これは、しかし、たんなる古風な写実ではない。きわめて忠実な写生に見えるが、人形たちの距離も画面の奥行きも“作りもの”である。対象をそっくりに描いたものに違いないが、明らかに画面には、作者の理知的な構成の意図が働いている。」
「写真ではとうてい表現し得ない神秘的なその空間は、明快なハイパー・リアリズムの対極にある。作者が特にひかれるという、オランダ17世紀の精密描写の影響は大きいが、それをわきまえたうえでの作者流の“ひねり”が利いているのである。」
サンデー毎日1977年11月20日号 「サンデー美術館」欄