本文へスキップ
岩田榮吉の世界ロゴ

岩田榮吉の人物と経歴

 人物点描
  オルドゥネール通りから(その4 カルチェラタンの映画館へ)


外国映画を吹替えも字幕も無しで楽しめる人は、ごく稀ではないでしょうか。例えば「口論している場面」とは想像できても、感情的に早口でしかも文法通りではない言葉の応酬についていけなければ、口論の中身はほとんど理解不能です。しかしその点、岩田は通訳・翻訳家として「永久労働手帳」を取得するほどフランス語を得意としていましたから、パリ市5区6区辺の旧作上映館へ好んで出かけました。

旧作上映館といえば、かつての日本では「名画座」といわれる小規模な単独館が各地にありましたが、今やネット配信、レンタルDVD、CATVなどに押され、あるいはシネコン化して激減しています。対して映画文化の保護に熱心なフランスでは、戦後間もない時期から制作・興行を含めて多面的な資金助成が行われ、通常であれば商業ベースに乗らない旧作も鑑賞できる映画館が今日もなお多く営業しています。

岩田は、映画館通いから女優マレーネ・ディートリッヒを知って《マルレーヌ》を描き(作品点描〜《マルレーヌ》戦争がもたらしたもの 参照)、数々のヨーロッパ時代劇映画のイメージを参考にしながら歴史的なストーリイ性を帯びた静物画を描きました。1960年代のフランス映画と言えば映像表現の革新を目指した「ヌーヴェルバーグ」を思い浮かべますが、旧作の活劇風時代物も多数上映されていたのはさすがパリと言えるかもしれません。

映画史から岩田がきっと見たであろう作品を拾ってみると、

★1943年公開の「悲恋」
ワーグナーの楽劇でも有名な「トリスタンとイゾルデ」の物語を下敷きとする中世世界の騎士と王妃の恋愛物語(コクトー脚本、ジャン・ドラノワ監督、ジャン・マレー、マドレーヌ・ソローニュ主演)

★1947年公開の「ルイ・ブラス」
ユーゴ―原作の16世紀スペインを舞台とする騎士物語(コクトー脚本、ピエール・ビヨン監督、ダニエル・ダリュー、ジャン・マレー主演)
(ポスター画像及び作品点描〜ポルトガルとスペイン(その2:《ルイブラス》) 参照)

★1952年公開の「花咲ける騎士道」
18世紀のヨーロッパ大戦=七年戦争時代を舞台とする騎士道物語(クリスティアン・ジャック脚本監督、ジェラール・フィリップ、ジーナ・ロロブリジーダ主演)

★1954年公開の「赤と黒」
1820年代の王政復古期を舞台とするスタンダール原作の野心家成り上がり物語(ジャン・オーランシュ脚本、クロード・オータン・ララ監督、ジェラール・フィリップ、ダニエル・ダリュー主演)

作品《ルイブラス》(画集No.50)のように、岩田は得たイメージをそのまま描くのではなく、様々なオブジェに仮託し象徴させて描きましたが、映画の一場面を彷彿とさせるものがない訳ではありません。《出逢い》(画集No.36)はその代表例でしょう。


パリ5区カルチェ・ラタンの旧作名画上映館「ラ・フィルモテーク」
パリ5区カルチェ・ラタンの旧作名画上映館「ラ・フィルモテーク」

館内にロビーがなく、チケットも上映直前にならないと買えないので、悪天の場合も外で待っていなければならない。


映画「ルイブラス」の宣伝用ポスター
映画「ルイブラス」(ダニエル・ダリュー、ジャン・マレー主演 ジャン・コクトー脚本)
の宣伝用ポスター

岩田の作品《ルイブラス》は本作をヒントにしている。(作品点描〜ポルトガルとスペイン(その2:《ルイブラス》) 参照)


《出逢い》 1970年
《出逢い》1970年(画集No.36)


ナビゲーション

バナースペース