窓のある室内、左上方からの柔らかい光、人形とミニチュアのオブジェ…1960年代後半以降、岩田はこういうモチーフをたびたび取上げていきますが、《人形と城》は中でもその端緒となる作品と言えるでしょう。フェルメール、長谷川潔、プルースト…先達の影響が既に見られます。マチエールも、塗りの厚さの使い分けがほとんど目立たなくなり、薄塗り・塗り重ねを主体とする後年の画面同様に落ち着いています。
ここに登場する人形は、私淑していた長谷川潔から贈られたものということですが、周囲に配されたオブジェとともに長谷川風の意味を帯び、物語性を感じさせます。タイトルの「城」はオブジェのミニチュアを指しているようですが、自身を仮託した人形の居るところが城のようにも思われるのです。
誰しも出かけたことのある、時間をさかのぼる感傷旅行の途上で出会った幼いころの自分。あの頃、光の射してくる窓の向こうの世界が、今よりもずっと広く、大きく、謎と秘密に満ちていたことを思い出します。もちろん、知らないこと、知ることができないこと、知ってはならないことの区別もつきませんでした。