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岩田榮吉の世界

岩田榮吉の作品

 作品点描
  ガラス玉のモチーフ(その3:《ガラス玉の厨子(トロンプルイユ)》)



ガラス玉を主要なモチーフとしていることは同じながら、《ローソク立てとガラス玉》(画集No.28、作品点描~ガラス玉のモチーフ(その1:《ローソク立てとガラス玉》) 参照)と《人形とガラス玉》((A) 画集No.76、作品点描~ガラス玉のモチーフ(その2:《人形とガラス玉》) 参照)では、表象するものが前者でヴァニタス、後者で外界と、差異が認められました。本作《ガラス玉の厨子(トロンプルイユ)》(画集No.46)は、その2作の中間あたりに位置すると言えるでしょう。本、トランプ、馬などのモチーフが加わり、トロンプルイユに仕立てられて、より内面的な空間を演出しています。

しかもこれは、単なる「箱」や「キャビネット」ではなく「厨子」。とはいえ、観音開きの左側扉が蝶番だけを残して外されて(あるいは外れて)います。岩田にとってはトロンプルイユを手掛け始めた時期の作ですから、画面の一部を隠してトロンプルイユ効果を高める定跡的な試みだっただけとも考えられますが、あるいは、後年の《日本人形(トロンプルイユ)》(作品点描~《日本人形(トロンプルイユ)》 参照)のように何かしら日本的な含意があるのかもしれません。

本作の制作年は1971年です。前年の個展(人物点描~第1回個展(その1~4) 参照)以来、国内の展覧会への出品要請・国内メディアからの取材が増加し、落ち着いてキャンバスに向かい合う時間が少なくなったこともあって、この年は制作点数も少なく小品中心になっています。本作もパリで制作し、“Nature morte à la boule de verre”というフランス語タイトルがついているにもかかわらず、パリでの出品歴はありません。

この時節、フランスでも日本でも、学生など若い年代の社会運動が下火になって、少々虚無的な雰囲気が漂い始めていました。岩田は、絵画制作面では画材の用法、画面の構成をはじめ自らの技法・作風に自信を固めつつありましたが、五感を研ぎ澄まして自身の立ち位置を知り、内心の声を謙虚に聞く努力を怠らないよう、自戒の念を込めているかのようです。(人物点描~朝日ジャーナル 1971年3月26日号、作品点描~《十字架の人形》 参照)


《ガラス玉の厨子(トロンプルイユ)》
《ガラス玉の厨子(トロンプルイユ)》 1971年 (画集No.46) 個人蔵


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