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岩田榮吉の作品

 作品点描
  ランプのモチーフ(その2)


岩田の画集掲載作品の中でも2点ある《ランプの静物》は、タイトルが示すとおり、ランプ(石油ランプ)が主要なモチーフになっています。そして、岩田の他の静物画同様、含意に富んだものになっています。

まず、《ランプの静物》(1970年、画集No.24)を見てみましょう。宝石箱、壁に留められたスペインの地図と鍵、トランプのD(Q)などは、このサイト「ポルトガルとスペイン」で見た大航海時代のスペインを想起させます。また、《ランプの静物》(1978年、画集No.89)も、スペインの地図、世界を表わすガラスの多面体、開かれた聖書、デバイダー(分割器)などが大航海時代のスペインを連想させます。しかし、2点の《ランプの静物》が、このサイト「ポルトガルとスペイン」で見た《ポルトガル礼賛》(1970年、画集No.26)や《宝石箱の静物》(1970年、画集No.21)と大きく異なる点は、ランプが中央に大きく描かれていることです。

ランプは古くから様々に描かれてきましたが、その意味するものは、精神の輝き、生命力、好奇心…といったところです。ただし、それらはどちらかというと「火の灯ったランプ」をイメージしています。《ランプの静物》2点のランプはいずれも火が灯っていません。油が尽きて炎が消えてしまったのであれば、「やがては尽きてしまう生命の炎」というヴァニタス的意味合いを想い起させ、「火の消えたローソク」と同列とも考えられますが、ローソクが短くなるのとは違ってランプの油が尽きたかどうかは不明です。

岩田の意図はむしろ、石油ランプが19世紀以降のものであることに重点があります。《ランプの静物》2点の火が消えた石油ランプはいずれも、大航海時代からヨーロッパ発展の原動力であった好奇心や新しい発見への執着が、そして精神の輝きが、20世紀にかけて失われていることを暗示しているのです。岩田がいくつも石油ランプを集めたのは、同時代のヨーロッパを様々に描いてみたいという意欲の反映かもしれません。


《ランプの静物》1970年
《ランプの静物》1970年


《ランプの静物》1978年
《ランプの静物》1978年


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