岩田榮吉の作品
作品点描
ポルトガルとスペイン(その1:大航海時代)
岩田は概して間接的な柔らかい光を好みとしていましたが、作品の中にはそれとは対極の直接的で強い光の下に、強いコントラストで描かれた静物画のグループがあります。中でも《宝石箱の静物》(1970年・画集No.21)、《ポルトガル礼讃》(1970年・画集No.26)、《ぶどう酒と宝石箱》(1972年・画集No.49)、《
ルイブラス》(1972年・画集No.50)、《スペインの夜》(1972年・画集No.55)、これらはすべて、ポルトガルとスペインをテーマとしています。
言うまでもなくポルトガルとスペインは、16世紀から17世紀にかけて、「大航海時代」を切り拓きました。それまでトルコや中国(明)に比べ、経済的にも人口もはるかに及ばず、北京、バグダード、コンスタンティノープルに匹敵する都市もなかったヨーロッパは、18世紀を迎えるまでには一通り世界に影響を及ぼす存在になります。
《ポルトガル礼讃》(1970年・画集No.26)では、中央に大きく地球儀が置かれ、アフリカ大陸と小さくイベリア半島が見えています。喜望峰まわりのインド洋進出でポルトガルは大航海時代の先陣をきったのです。そして広げられた厚い書物。大海に乗り出すに必要な航海術・造船術の知識蓄積を表し、あるいはこの書物は聖書で、伝説の大キリスト教王国「プレステ・ジョアン(プレスター・ジョン)」探索が大きな動機のひとつであったことを表すものでしょう。
そして「大航海時代」がもたらした最大のものは、やはり銀や香辛料などの取引から生じる経済的利益です。《宝石箱の静物》(1970年・画集No.21)、《ぶどう酒と宝石箱》(1972年・画集No.49)では、それが描かれます。しかし、ポルトガル・スペインは銀や香辛料の見返りとなる羊毛などの確保に苦しみ、オランダやフランス、やがてイギリスに取って代わられます。
いわば近代ヨーロッパの幕開けとなる「大航海時代」を切り拓いたポルトガル・スペインの強い陽光と乾いた空気、そしてそこから生まれる漆黒の闇は、地中海の風土的特性であるばかりか、社会の様相にも反映し、カラヴァッジョやスルバラン流の強いコントラストの光が表現に最も適していたのだと思われます。
《ポルトガル礼賛》 1970年
フランシスコ・デ・スルバラン 《茶碗・アンフォラ・壷》1650年頃
油彩/キャンバス 46cm×84cm プラド美術館
Francisco de Zurbarán(1598年~1664年)は「スペインのカラヴァッジョ」とも称され、この作品はスペインの代表的ボデゴン(静物画)作品といわれています。