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岩田榮吉の作品

 作品点描
  風景素描から(その1:オランダ)



常にスケッチブックを持ち歩き、いつでもどこでも気になるものを描きとめるという画家がいます。岩田はそういうタイプではなかったようで、スケッチブックの類はごく少数しか残っていません。自然の景観、街中の事物や出会う人から制作のヒントや着想を得る事を期待していなかったというより、観察し、それを記憶するには手を動かすよりまずは見極め反芻し考えてみたかったのではないのでしょうか。

例外は渡仏後間もない時期の旅行先での風景素描です。1957年から1960年にかけてのオランダ、イタリア、北アフリカへの旅行中は、淡彩をほどこしたものからボールペンの簡単なカットまで相当数が残っています。後々の画題や制作の下絵となったものは少なく、「初めてのヨーロッパ」という高揚感の産物とも言えそうですが、この時期の岩田が直面していた問題、抱えていた疑問への手掛かりが見えるようでもあります。


《オランダ風景》(画集 参考作品 No.47) 東京芸術大学蔵
《オランダ風景》(画集 参考作品 No.47) 東京芸術大学蔵


このオランダ旅行の大きな目的はフェルメールを実見することでした(概要は本サイトの 人物点描~1957年暮のオランダ旅行(その1)(その2)(その3) 参照)。風景素描はいわば「おまけ」だったはずですが、ここに見る4点は時間を接して一定の地域内で描かれたもののように見えます。直角に曲がり下る運河(川)にはいくつも橋がかけられ、橋の向こうにはなだらかな起伏の地が続いて、中層の建物が迫っています。

このとき岩田は既にフェルメールの《牛乳を注ぐ女》《デルフト眺望》を見ていたはずです。その経験は、絵画世界に一層引き込まれていく自身を痛切に感じさせる一方、歩むべき道の困難さ、越えていかなければならない障壁の高さを思って止まらない身震いとともに忘れ難いものでした。普段はそれほど実景の素描をしない岩田でしたが、すぐ向こう岸にあるものを見て、ただ手を動かすことしかできなかったのかもしれません。


《オランダ風景》(画集 参考作品 No.49) 
《オランダ風景》(画集 参考作品 No.49)


《オランダ風景》(画集 参考作品 No.50) 
《オランダ風景》(画集 参考作品 No.50)


《オランダ風景》(画集 参考作品 No.51) 
《オランダ風景》(画集 参考作品 No.51)


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