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岩田榮吉の世界

岩田榮吉の作品

 作品点描
  1979年作《ピエロ》その1


同じモチーフが繰返し取上げられ、そのモチーフならあの画家とすぐに思い浮かぶ例はたくさんあります。有名なところでは、モネの睡蓮、ゴッホのひまわり、セザンヌのリンゴ、等々。岩田にも人形をモチーフとする作品が相当数あります。しかし岩田の人形は先の例とは性格が全く違います。睡蓮をはじめ、ひまわりやリンゴそのものには何の意味もないのに対して、岩田の人形は濃厚な意味を包み込んでいます。

人形は、睡蓮やひまわりやリンゴと同列のモノに過ぎませんが、人の形をしているがために、持ち主は勝手に名前をつけてみたり、特別な誰かに擬えてみたり、様々にプライベートな意味を与えることができます。岩田は、人形に加え厳選したオブジェを配して、ある状況や小さな世界を演出することにより、画面を単純化し整理して、リアルな世界から見える以上に真実に迫る表現を追求しています。

岩田の場合、特定の人物や存在を象徴するものを除けば、描かれた人形の多くは自分自身です。岩田は芸大卒業制作の《ナルシス》以来、繰返し、「とんがり帽」と道化の扮装を自画像に取入れました。1960年代前半、30歳台前半頃までは、自身が「とんがり帽」と道化の扮装をしていますが、以後は人形に置き換わります。1979年作《ピエロ》の主役であるとんがり帽をかぶったピエロの人形は、まさにこれまでの流れに沿う岩田自身なのです。


《ピエロ》 1979年
《ピエロ》 1979年


画中、人形の両脇にはパイプとコーヒー挽きが配されています。1968年の「五月革命」で人々が生活用品確保に走る中、岩田が買ったのは煙草とコーヒーだけ(人物点描~タバコとコーヒーさえあれば 参照)という逸話があるくらい、無くてはならない必需品です。そして人形が腰を据えている地図は、ヨーロッパ。先人の遺した知の伝統が詰まっている書物と、小箱に納められ自身のよりどころとなっているかけがえの無い記憶を重んじて、時計に刻まれる近代の日々を送ります。


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