岩田榮吉の作品
作品点描
《回想》
多くの人物が描かれている点で、岩田にしては珍しい画です。人物あるいは人形を描く場合、ほとんどは1人(あるいは1体)で、2人(2体)は稀、3人(3体)以上はほぼありません。また、《回想》とタイトルがつけられ、40号と比較的大画面ですが、完成作ではないようです。タッチや色遣いからみると、芸大の学部卒業制作である《ナルシス》(
作品点描~《ナルシス》(その1) 参照)と専攻科課題制作《招待》(
作品点描~《招待》 参照)の中間に位置するようでもあります。
本作画面中央下の人物は、《赤いとんがり帽の自画像》(
作品点描~とんがり帽の自画像 参照)などに類似し、岩田自身に相違ありません。しかしその比重は大きくなく、本作のテーマを《ナルシス》と同列の自画像とみるのは無理がありそうです。一方、この人物は《招待》の右下の人物にも類似しています。複数の人物プラス自身という構成が同じことからも、本作は《招待》とほぼ同じ時期に手がけられたものと思われます。
《招待》での課題は「実際の空間と、画面の空間の関係を考察すること」であり、岩田は「どのような構図の中で(2人3人の関係を)組み合わせていくか」に苦心していました(
作品点描~《招待》 参照)。本作はその過程での試作ではないでしょうか。とはいえ、発想はなかなかに面白く、未完のままであることが残念です。あるいは岩田自身もそう考えて、あえて廃棄せず手許に残しておいたものかもしれません。
《回想》 制作年不詳 個人蔵(横浜本牧絵画館寄託)