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岩田榮吉の世界

岩田榮吉の作品

 作品点描
  時計と時(その2 三種の時計が示すもの)


岩田がモチーフとして取上げた時計は、「ゼンマイ式懐中時計」、「砂時計」、「携帯型日時計」の三種です。16世紀から17世紀のフランドル、オランダで多く描かれた寓意画において、一般に時計は「人生の短さ」すなわち「死に向かう抗えない時」を表わすとされており、岩田の場合も「砂時計」についてはそうした意味合いを踏まえているかに見えますが、他の2種類の時計にはさらに別の含意がみられます。

機械時計(懐中時計)は、時計の登場する岩田作品の中でも最も多く描かれていますが、これはやはりプルーストの「失われた時」に通じる「時」を表しています。科学技術の進歩、経済の細分化と巨大化、社会の複雑化、それらの広範な結びつきの中に絡めとられ、時代とともに息苦しさの募る「近代の時」です。

とすれば日時計の表すところは「神の時」以外にありません。篤い信仰に裏付けられ、その進行はすなわち神の都に近づくことという「時」のあり方は、生を脅かすものでも、生の桎梏となるものでもないのです。むしろ広大な天地に透徹する大きな意思を直観する時、移ろうものの姿として現れる「時」は大きな平安をもたらすものでさえあるのです。

岩田に《三つの時》(画集No.107)という作品があります(画集掲載のタイトル《三つの時計》は誤り…本サイト「作品点描~作品とタイトル(その2 《三つの時》《人形と鳥》) 参照)。本作は時計というモノを描いて、「神の時」、「人生の時」、「近代の時」という三つの「時」を表わし、他のオブジェもそれぞれの時を示唆しています。そして「日時計」、「砂時計」、「機械式時計」が併用された15~18世紀頃までのヨーロッパは「三つの時」が交差していたこと、ひいてはいまを生きる人々の心にもそれぞれの「時」が見え隠れすることにも思いが至ります。


《三つの時》 1980年
《三つの時》1980年


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