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岩田榮吉の作品

 人物点描
  絵の味(その2)


「絵を味わった」という逸話を持つ画家は、岩田と極めて近いところにもいました。その画家は、岩田が芸大1〜2年生であったときに指導を受けた教授・小磯良平(1903〜1988)です。ところは倉敷、大原孫三郎がそのコレクションとして買い付け1921年末に到着した作品群を、「第2回現代仏蘭西名画家作品展覧会(1922年1月2日〜8日)」と銘打って公開した会場(地元の小学校を借上げ)がその現場です。

当時中学生であった小磯は、会場に親友の竹中郁(1904〜1982、詩人)と神戸から夜行日帰りの予定で倉敷に出かけ、未明の展覧会場に一番乗りをしたようです。竹中によれば、
係員はまばらだったが、その一人が幼い中学生二人をみて、寒いから中へ入るようにと言ってくれた。…百号以上のものがざらにある。中学生二人は盲滅法にみるだけで、どれがいいのか、名作なのか、どれもこれも名作にみえるようだったが、小磯はデバリエールの『室内』とゲランの『伊太利女』とがいいよと言った。その上、ゲランの絵の前では、あたりに人のいないのを見すまして、あり合せの番人用の古椅子に乗り、ゲランの絵の下の方の隅を舌を出して舐めた。

さらに竹中はその理由を推量しています。「なぜそんなことをしたか。じつは石井柏亭の油絵の手ほどき本だったかに、よい出来の油絵はよいタッチでできているものだ。舐めてみれば判る、というようなことが書いてあったのを読んでいて、以前にもわたくしにそんな話をしていた。それを実地にやってみせたのである。―竹中郁「消えゆく幻燈」1985年3月 編集工房ノア刊 p.194〜195

竹中の推量によれば、「味わった」というより「舌触りを試した」ようでもあり、また後年、小磯自身そもそもこの話は実話でないと言っていたとの伝聞もあるようです。ともあれそれから35年の後、アムステルダムで初めてフェルメールの《ミルクを注ぐ女》と対面した岩田は、この逸話を知っていたのでしょうか。


シャルル=フランソワ=プロスペール・ゲラン 《タンバリンを持つイタリアの女》 1911〜14年頃 油彩/キャンバス 117cmx89cm 大原美術館
シャルル=フランソワ=プロスペール・ゲラン 《タンバリンを持つイタリアの女》
1911〜14年頃 油彩/キャンバス 117cmx89cm 大原美術館



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