岩田榮吉の作品
作品点描
《パラソルを持つ人形》(その1:人形の由来)
お出かけ前のひと時でしょうか。よそ行きドレスでパラソルを手に人形が座っています。その表情をはじめ、ドレスにあしらわれたレースや華やかな帽子などは細密に丁寧に描写され、これからの楽しい時間を思って胸を高鳴らせている様子がうかがわれます。しかし室内を見渡すと、糸車や水差しの日常はそのままに、深刻なこと諸々は鍵をかけた扉の向こうに追いやられ、消えたろうそくがそういうことは長続きしないと暗示しています。
本作の人形は、1962年作の《トランペットを持つ人形》と同一で、私淑していた長谷川潔の旧蔵品を継承したものです(
作品点描~《トランペットを持つ人形》 参照)。印象が一変し、まったく別の人形であるかのようですが、本作のような衣装は長谷川からもらい受けた中にはなかったと思われます。岩田は人形の衣装でも簡易な造りなら自作しましたが、レースをあしらったこのようなドレスの製作は少々高度な技能を要しそうです。
アンティークのビスクドール用には、ジュモー、ブリュといった人気ブランドのものであれば、替え衣装やその製作キット、中古品の入手は可能であったと思われますから、そうした中から見繕い補修・改造も加えて用意したのではないでしょうか。(ちなみに、1970年代以降の作品に登場するレースドレスの人形には、本作とはまた別のドレスを用意しています。)
本作は、自身を仮託した《トランペットを持つ人形》からさらに進んで、1967年作の《人形と城》(
作品点描~《人形と城》 参照)とともに、今を生きる人間の深層を見つめる後年一連の作品の端緒となりました。
《パラソルを持つ人形》 1966年