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岩田榮吉の世界

岩田榮吉の作品

 作品点描
  額縁とトロンプルイユ


岩田によれば、絵は「額縁に入れる普通の絵」と「額縁に入れないトロンプルイユ式の絵」に二分されます(作品点描~トロンプルイユ(その2) 参照)。「トロンプルイユ式の絵」は、絵を見る人のいる世界と、あたかもつながっているような絵画世界を創り出します。対して「普通の絵」では、その絵が描き出す世界と絵を見る人のいる世界とはつながりのない別々のものです。額縁はそのつながりの有無を確かにするものにほかなりません。

また、岩田はトロンプルイユ作品のタイトルに必ず括弧書きで「トロンプルイユ」を加えています。画集や図録などでは「普通の絵」も額縁部分は省かれてしまい、「トロンプルイユ式の絵」も正面からの画像だけ…となると一見区別がつきにくいことが主な理由と思われますが、加えて、「トロンプルイユ式の絵」には(できることなら)額をつけないでくださいという意味あいが込められているのかもしれません。

ところで、今日美術館などで見る17~19世紀ころの油彩画についている額縁は、ほとんど制作された当初のものではないと言われます。絵の掛けられる場所が変わる度に、周囲の調度にあわせて額縁を変えること、あるいは絵の所有者が変わる度に、持ち主が絵のイメージに合うと考える意匠の額縁に変えること…はよくあることだったのです。新作の絵に、わざわざ古い額縁を探し出してきてつけることが流行した時期もあったようです。

絵画作品に感動しても、その作品にどのような額縁がついていたかは憶えていないことが多いのではないでしょうか。しかし、額縁は作品の保護のためにだけあるわけではありません。「普通の絵」において、額縁が画家と作品の所有者を結ぶ重要な役割を担っていることは明らかです。岩田も、「トロンプルイユ式の絵」以外では、額縁制作者を作品の共同制作者のように接しています(人物点描~長尾廣吉の額縁 参照)。


《アルルカン》 1975年
《アルルカン》 1975年



この作品はトロンプルイユ風ではありますが、岩田は「普通の絵」として額装しています。


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