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岩田榮吉の作品

 作品点描
  《ナルシス》(その3 背後の「風景」)



岩田の《ナルシス》(1955年、画集No.9)は、芸大美術学部卒業制作の課題である自画像として描かれました。主題はもちろんナルシスに擬えた自身なのですが、その人物がいる場所と背後に広がっている風景も効果的に主題を引立てています。岩田は本作の制作以前既に類似した風景を数点描いていますが、単にその成果を盛り込んだだけでなく、画中の自身が置かれた状況を示唆するモチーフになっています。

《風景(C)》はそのうちの1点です。廃墟のような建造物と画面右端のデフォルメされた樹木で構成されています。奥側の建物は塔屋を備えた造りのようですが、周囲には樹木が生い茂り、暗く沈んで細部は判然としません。手前側には弱い光が当たっていますが、附属建造物、囲壁や門柱らしきものはあるいは欠損しあるいは崩れています。空には不穏な雲、全体に空虚で不安な雰囲気が漂っています。


《風景(C)》
《風景(C)》


そして右端の樹木(?)。背景の樹木とは異なり、枝葉なく幹だけが変容したこの樹木は、《木立》(人物点描~パレットクラブ 参照 )に描かれたと同様、その場に根ざして生きることを運命づけられた自己の象徴であるとすると、風景を描いているかに見えるこれらの作は実は《ナルシス》と同様の発想で構成されていることがわかります。つまり、岩田の芸大時代の「風景画」はすべて《ナルシス》の習作といっても過言ではないのです。


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