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岩田榮吉の世界ロゴ

岩田榮吉の作品

 作品点描
  《Paysage》(日本館「卒業制作」)



パリ国際大学都市日本館にて(部分)
パリ国際大学都市日本館にて(部分)


留学生時代の岩田が滞在した日本館自室の壁面棚上には、描きかけの風景画が並んでいます。「人物点描~日本館時代~転機(その1)」掲載の写真の右上部に見える2枚は《Paisage》のタイトルがつけられ、後に右の方の作品タイトルには(B)が付されました。2枚とも同サイズの25号です。


《Paysage》 1958年 (画集 No.13)
《Paysage》 1958年 (画集 No.13)


左の方の《Paysage》は、その習作の水彩スケッチ(画集の水彩No.1)を見るとかなり実景に近く描かれていることがわかります。ここはモンマルトルのノルヴァン通り、正面にあるトリコロール日よけの店は、ピカソ、ゴッホ、ロートレックなども通ったレストラン「ル・コンスラ」に違いありません。しかし、水彩スケッチにあった店名のロゴは完成作では描き込まれていません。さらに、わずかに覗いていたモンマルトルのランドマーク、サクレクール寺院のドームも描かれていません。あたかも岩田はここがモンマルトルの有名な一角である証跡を消し去ろうとしているかのように見えます。


《Paysage》の習作 《パリの街角》 (画集 水彩 No.1)
《Paysage》の習作 《パリの街角》 (画集 水彩 No.1)


もう一つの《Paysage(B)》は、《Paysage》とは対照的に実景をベースにしたものではなく、いくつかの実景イメージを構成的に重ね合わせたものです。用いた実景イメージは、《イタリア・塔》、《イタリアの街角》、《北アフリカ風景》(これらの画像は、作品点描~風景素描から(その2:イタリア)および(その3:北アフリカ) 参照)などにみられます。つまり岩田が描きたかったのは、岩田が理解したヨーロッパだったのです。時を経て傑出し堅固に見えながらある面「昔臭い」しかも影も闇も強いヨーロッパ。袋小路にいるわけではないはずながら射す光にかつての強さはなく、人の気配はありながら溢れるような生気は感じられなかったのかもしれません。


《Paysage(B)》 1958年
《Paysage(B)》 1958年


この2点のタイトル「Paysage」を辞書で調べると、「①景色、風景、②風景画(絵またはジャンル)例:paysage de Courbet クールベの風景画」とあります。あえて日本語に訳さずフランス語のままにしたのは、この2点が paysage de Iwata 岩田の風景画であるという意味あいを込めた「日本館『卒業制作』」だからなのでしょうか。


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