本文へスキップ
岩田榮吉の世界

岩田榮吉の作品

 作品点描
  《人形と鳥》(その1)


岩田が私淑した版画家・長谷川潔(1891~1980年)は、自作について次のように語っています。「(自分の静物画は)、静物画の形をして実はぼくの思想をあらわしているわけなんです。そこがだいぶ、ぼくの静物画のほかの人とは違うところなんです。抽象的にいえば、小鳥は精神をあらわすといった意味にぼくの絵の中では使っていますし、魚は物質をあらわしているわけなんです。また一方に、ある時代の作品は、小鳥はぼく自身をあらわしている、そういった作品も相当にあるわけなんです。
(長谷川潔『白昼に神を視る―新装・改定普及版』白水社1991年 p.20)

一方、岩田の作品には人形をモチーフとするものが相当数あります。《マルレーヌ》(1973年・画集No.64)、《近東への想い》(1971年・画集No.45)などのように特定の人物や存在を表したものを除けば、描かれた人形の多くは自分自身、それら作品は一種の自画像と見られます。とくに「とんがり帽」を被った人形は、《青いとんがり帽の自画像》(1960年・画集No.15)、《赤いとんがり帽の自画像》(1960年・画集不掲載)の延長線上にあって、岩田自身を表します。

一目瞭然、岩田の《人形と鳥》(1970年・画集No.78)のテーマは、「私(岩田)と長谷川先生」です。鳥の傍らのリング、人形の左右のガラス球と立方体などは長谷川作品にも岩田作品にも登場し、築き上げてきた画業、映し出された世界、該博な知識を象徴するもので、岩田の長谷川に対する畏敬の思いが溢れています。岩田の静物画もまた、「静物画の形をして実は」岩田の思い、考え、あるいは信ずるところなどを表しているのです。


ナビゲーション

バナースペース